2015年9月9日水曜日

空白

2015年9月9日



雨上がりの空の下、心の中で泣いた。




9月6日が祖父の命日なので、借りていたスーツケースを返しがてら、お土産も渡しがてら、実家に滞在していたのだが、ちょっと長い期間居過ぎたようだ。些細な事で母と口論になったら、衝撃的な事を言われた。

私の思考は停止した。今は何も考えられない。






確か3年前、好きだった人と駆け落ち寸前になっていて、きっとこれでは仕事も辞めざるを得なくなるだろうし、これからどうやって生活していこうか……と途方に暮れるもどうにもならなくて、当時実家暮らしだったため、両親が「それなら一度家に連れて来い」という事になった。で、彼の仕事の都合とかでたまたま家に来たのが9月6日だった。そう、3年前の祖父の命日。


今に思うと彼は自由で、そこまで未来の事を考えていなかったんだろうし、私と結婚するとかも全然考えてなかったんだと思う。ごく普通に友人の家に来るような感じで実家に来たので、とにかく両親は仰天してしまった。


で、ただ普通に夕飯を家で食べて帰ったので、彼の帰宅後、そんな男に娘をやれない、と母が気が狂ったようになった。もう絶望のどん底って感じだった。それで父が見兼ねて、あの男と一緒になるのなら、もう親は捨てろ。あの男を取るか、家族を取るか、どっちかにしろ。と二者択一を迫られたので、駆け落ち寸前の心境だもの、私は彼を取ると即答したのだ。そんな二者択一で、家族を取るって言うと思ったのか、そっちのほうが不思議だ。それで私は家を出た。彼の家には長く泊めてもらえなかったし、仕事は結局続けたし、ちょうど運行管理者の試験を受ける前だったのと、今後の生活を考えて家賃の上限が低かったのでなかなか良い物件が見つからず、実際に家を出たのは半年後になってしまったが、とにかくそれがきっかけで私は実家を出た。


それから一度、母と彼が電話で怒鳴り合った事があった。私はその時彼と一緒に居たのだが、母の声は電話口から大きく流れ出て尋常ではなかった。彼も普段は穏やかな人だったけれど、この時は人が変わったようになって怒り狂い、母を罵倒し倒した。なんでこんな日が来てしまったんだろうと、なんであんな日が来てしまったんだろうと今思い出しても本当に悲しいし、あの時ばかりは母も彼も許せないと思ったし、実際今でも許せていないのかもしれない。翌日、彼には「俺について来ないほうが良いんじゃないのか、悪いけどあの人とは二度と関わりたくない」と言われて死ぬ程辛かったし、時が経って、彼とさよならして、更に時が経ってもう思い出す事もそんなにないけど、その話を今日、さっき、母がぶり返してきたのが信じられない。






母はまだあれから立ち直っていないと。
心も身体も私とあの男にズタズタにされたと。以前の自分に戻れていないと。






実の父親(私にとっては母方の祖父)の命日にあんな男を実家に入れた事を後悔している、と今までに何度も聞いた。でももうそれは過ぎた事で、今更どうしようもない。


結局私は、母の大嫌いなあの男とは結婚しなかったし、母にとってはそれで良かったじゃないか、母に言われたから別れたわけではないけれど、自分としてはこれだけははっきり言っておきたい、母が悲しむから別れたわけではないけれど、母は自分の気持ちが受け入れられなかった事をひどく悲しんでいるようだ。どうしたら気持ちが伝わるのか、と私に言われても、伝わっても私には母が喜ぶように応えられない。申し訳ないけれど、私にだって気持ちがある。もう会う事はないだろうけど、彼の事を全面的に嫌いになったわけじゃない。


しばらくここには来ないでほしい、と言われたので、もう二度と来ないよ、と言って家を出ようとした時、おにゃさまが寄ってきた。おにゃさまは実家の15歳の猫で、本名は沢雄と言う。抱かれるのが嫌いで、触ろうとするとすぐ逃げてしまうのに、私が座ると今日は膝に乗ってきた。






あの時もそうだった。私が荷物をまとめて家を出る時、そうあれはまだ住む場所も決まってなくてとりあえず彼の所から仕事に通おうと思って徹夜で荷物を詰めた朝、じゃぁねっておにゃさまに挨拶したら、おにゃさまが突然立ち上がって私の足元まで来て、足に両手を掛けて私の顔をじっと見つめて鳴いた。まるで「行かないで!」と言っているようで、一気に涙が溢れ出たけれど、私は「ありがとう、ごめんね、元気でね」と言って行くしかなかった。その後、実家に戻ってくる度におにゃさまに喋りかけてみるけれど、あの時のような声で何か言ってくれた事はそれから一度もなかった。



そんな事があった事さえもう忘れかけていた。おにゃさまを膝に乗せていたら、それまで強かった雨が突然上がった。両親は、今雨が上がっているうちに帰れと私を急かした。父が「帰れなくなるから膝から下りてやんな」と沢雄にまで言うので、あんまりにもうるさいので「ありがとう、元気でね」と言っておにゃさまを下ろした。二度と来ない事はない。でも、もう15歳だから、いつもこれが最後でも悔いが残らないように……。






命の恩猫だ。ずっとそう思っていた。
最近、他に夢中になる事や、興味のある事がたくさんあって、忘れかけていたけれど、命の恩猫であった事に変わりはないし、今もそうだ。これからもずっとそうだ。












台風だったのに、本当に晴れてしまった。
まだ元気に生きてほしい!
私も今を精一杯生きるから。












心にぽっかりと空いてしまった穴は、そう簡単に閉じるわけないけど、

気付いたら虹が出ていた。

これからどうやって生きていくのか、私にはわからない。







0 件のコメント:

コメントを投稿